　　東京地決平成4年10月16日金法1346号47頁：抵当権設定後の賃借権についてのみ肯定
　　東京高決平成7年3月17日金法1438号36頁：抵当権設定後の賃貸借につき賃借人の行為態様を問題にせず肯定
　　東京地判平成7年8月29日金法1454号85頁：抵当権設定後に管理・賃貸を委託した代表者個人と実質的に同一人たる受託会社につき肯定
　　（参考）　福岡高決昭和60年8月12日判時1173号71頁：直接請求権に対する物上代位
　　　　　　　　東京高決昭和63年4月22日高民集41巻1号39頁：競売開始決定の効力発生以降肯定

①後順位転貸人の保護の必要性の低さ（転貸人は先行する抵当権に劣後することを承知して転貸行為をしている）

②短期賃借人保護の射程（短期賃貸借は現実の利用以上に転貸による差益まで保護するものではない）

③第三取得者との比較（所有権者である第三取得者等は賃料に物上代位されるのだから、これと比較して、所有権の権能の一部を引き継ぐ賃借人をそれ以上に厚く保護する必要がない）

④物上代位の必要性（賃料と転貸料の差が大きい場合、613条では低い方の賃料額に限定されるし、債権者代位権や詐害行為取消権による解決も困難）

　　　批判　　　①平成元年判決との不整合（平成元年判決は、賃借権と抵当権の設定時期の先後にかかわらず賃料債権への物上代位を肯定しており、賃借権と抵当権の対抗という論理を採らない）
　　　　　　　　　　②短期賃借人への物上代位の矛盾（短期賃貸借の対抗力を認めながらその保護が目的物の利用にのみ限定されるとする理由が十分でない）
　　　　　　　　　　③執行回避の容易さ（賃借権設定日付の遡及によって執行回避が容易で、先後関係の区別は有用でない）
　　　　　　　　　　④先順位賃借権に対する物上代位の一律否定への疑問（抵当権設定前から存在する賃貸借契約上の賃借人の地位を賃借人から譲り受けて賃料を低額に改訂し、既存の賃借人を転借人として従来通りの賃料を収取するなど、抵当権設定前の既存の賃貸借関係に割り込む形で賃料差額を債権の回収に充てたり、物上代位への妨害が企てられた場合に対処できない）
　　　　　　　　　　⑤後順位賃借権に対する物上代位の一律肯定への疑問（一括賃借してテナントに転貸するいわゆるサブ・リース型では物上代位を認めると正常な営業を害する）

⑥判断基準としての有用性への疑問（③④を権利濫用・信義則等の一般原則によって修正するのでは、抵当権設定の前後による区別は暫定的なものにとどまって、結局執行妨害等要件説と同様の考慮を重ねて行う必要が生じて二度手間）

　　大阪高決平成7年6月20日高民集48巻2号177頁
　　大阪高判平成7年10月27日高民集48巻3号253頁

　　　　理由　①304三〇四条の文理（物上代位の客体は、抵当権の負担を受ける所有者に帰属する債権を意味し、文理上所有者からの賃借人を含むと読み替える余地がない）
　　　　　　　　　②転貸料の性質（転貸料を抵当不動産の交換価値のなし崩し的実現と見るのは無理で、物上代位権の行使を許すことは物上代位の本来の趣旨にそぐわない）
　　　　　　　　　③例外として肯定される場合

　←賃料債権への物上代位を転貸形式によって回避することは、賃貸借と抵当権の設定の先後関係に関係なく不当

　　　　　批判　①対抗力ある賃借人の優先的権利（抵当権設定前の賃貸借では、賃借人には対抗力があり、物上代位権行使によって、転貸料収受権を脅かすことはできない）
　　　　　　　　　　②抵当権者の期待の欠如（抵当権者は、当初から賃借権の負担のついたものとして、不動産の交換価値を把握していたはずである）
　　　　　　　　　　③抵当権者の立証負担（執行妨害などの事実を証明するのは、抵当権と賃借権の設定時期の先後と比べて容易ではない）
　　　　　　　　　　④執行裁判所の判断の困難（執行妨害等という曖昧な基準では執行実務上の運用が困難である）

宮崎祐二、清原泰司など
　　　理由　①現実認識（転貸料への物上代位が問題になる事案のほとんどが詐害的事例である）
　　　　　　　　②平成元年判決（この判決は抵当権設定前の賃貸借の賃料への物上代位を認めており、転貸料について特別合理的な理由がない限り、物上代位を否定するいわれがない）
　　　　　　　　③執行実務の運用上の便宜（何が異常かという判断基準が曖昧で執行実務運用に支障を来すから一律の処理が望ましい）

　　　　　　批判　①正常な賃貸借を阻害し、短期賃貸借保護の理念と矛盾する
　　　　　　　　　　　②第三取得者と異なり賃借人は抵当権の物的負担を引き継ぐものではない

高橋眞、高木多喜男など
　　　理由　①賃借人の物的無責任（賃借人＝転貸人は所有者と異なって物的責任を負うものではない）

　②賃借人の予測（賃借人は、抵当権の実行によって自己の賃借権が覆滅することは覚悟していても、転貸料収入を長期にわたって剥奪されることまで覚悟すべきだとは言えない）

　③転貸料の内容（転貸料収入の中には賃借人が投じた管理費用等に当たる部分も含まれ、抵当目的物の価値を超える）

批判　①対抗の論理を持ち出す点で後順位賃借権限定説と同様の批判を受ける
　　　　　（最二小判平成元年10月27日民集43巻9号1070頁と矛盾）
　　　　　②転貸料は不動産に由来する利益ではあるが、所有権者の受けるべき果実や利益とは異なる。

　とりわけ、債権回収目的で設定者と同一人と評価できない者が割込などによって賃借人となったケースをどう考えるか。

　　　一体視できない場合にも転貸料債権への物上代位を認めるとすれば、賃借人が破産した場合の処理が困難になる（福永有利「倒産手続における物上代位(1)」金法1512号14頁）

　　　山本克己教授が指摘するように、転貸料債権に対する物上代位の場合には、抵当権者＝原賃貸人と原賃借人＝転貸人が同一視できることを基礎づける事情が「文書」による証明の対象であると解する余地があるが、執行実務はそのような事情は「文書」による証明を要しないとしている。これを前提とすると、準名義説でも書証説でも登記済抵当権については物上代位権の実行にまったく支障はない。転貸料債権への物上代位権も別除権と解することになる。