【抵当権侵害に対する救済】（教科書235～240頁、279～281頁）

　・抵当権侵害＝交換価値の減少行為≠目的物の毀損等←非占有担保性（価値権性）

・目的物の正当な利用の範囲を超える場合のみ違法

・侵害者に故意・過失がなくても妨害予防請求権により侵害行為を禁止できる。

　判　大判昭和7年4月20日新聞3407号15頁

・通説は抵当権の不可分性を理由に具体的損害の発生を問題にしないが疑問もある。

・誰に対する返還を請求できるかについては争い有。

　判　最判昭57年3月12日民集36巻3号369頁：第三者が善意取得しない限り、抵当権者は工場抵当権の及ぶ動産を元の備え付け場所に返還するよう請求できる

　実質的考慮：返還を受けた抵当権設定者＝所有者の再度の違法処分防止

(a) 解除された短期賃貸借の登記、消滅した先順位抵当権設定登記などの抹消請求

(b) 付加物だけについての他の債権者の強制執行は、第三者異議（民執38条）で排除できる（最判昭44年3月28日民集23巻3号699頁）。

　　　判　最判平3年3月22日民集45巻3号268頁：非占有担保性と買受人の引渡命令（民執83条）の存在を理由に否定

　　　　　最大判平11年11月24日（百Ⅰ84事件）：代位請求を認容。傍論として抵当権に基づく自己への明渡請求→管理占有をも肯定。いつから可能かに争い有。

３　不法行為に基づく損害賠償請求

・目的物の正当な利用による減価は違法性または損害を欠き、抵当権侵害とならない。

・厳密には被担保債権が担保されなくなった額が損害額で、実行時まではそれが確定しないが、判例・通説は抵当権者の保護のため弁済期以降は損害賠償請求を肯定。

　　・設定者のみ。抵当権者はそれに物上代位権を行使（近時の多数説）。

　・期限の利益喪失－137条2号＋期限の利益喪失約款によるその拡大

　・増担保請求－設定契約により設定者の侵害の場合には可能→特約による強化

　・条文創設は見送り　←一般的な物権的請求権規範の欠如、要件・効果に関する意見の不一致、立法による妥協的現状固定のおそれ

　・執行妨害対策のための抵当権に基づく不動産管理制度の創設も見送られ、不動産競売一般における不法占有排除の問題として対応することになった→民事執行法・民事保全法の改正へ。

【抵当権の実行手続と執行妨害対策】（教科書250～261頁）

　★抵当直流(じきながれ)特約の有効性（372条→349条参照）とそれへの疑問

　・実行手続の概要（教科書251頁の図を参照）

　　①競売申立・差押→②現況調査・評価・配当要求の終期の決定・債権届の催告

→③最低売却価格の決定・物件明細書の作成・売却日時や場所の公告・期間入札など・売却許可決定・代金納付→④弁済金交付または配当手続

２　実行妨害とそれに対する手続法上の対処手段

　・実行妨害：詐害的短期賃貸借、不法占拠、留置権、建物築造（教科書252頁参照）。

　・対処手段：①民事保全法24条による占有移転禁止の保全処分（今後活用可能）

②民事執行法による保全処分（平成8年・10年改正による）

　売却のための保全処分（民執55条）

　競売開始決定前の保全処分（187条の2）

　買受申出をした差押債権者のための保全処分（68条の2）

　買受人のための保全処分（77条）

①民執55条1項等の要件緩和（価格減少行為が「著しい」ものでなくてよい）

②民執55条2項等の要件緩和（執行官保管の要件としての「特別の事情」の削除）

③現状変更禁止命令の要件緩和（価格減少行為を要しない）

④現状変更禁止命令違反による執行官保管

⑤執行官以外を不動産の保管人とすること

⑥占有者を特定しないままでの保全処分発令

⑦占有移転禁止命令の保全処分の名宛人に対する引渡命令の執行力を占有承継人に対しても拡張すること（当事者恒定効）

　(2)　不動産の明渡執行に関するもの

　　・仮処分時に「不動産の占有者」とする債務者の特定表示を認めること

　　　①明渡催告の公示により占有者が交代した場合にも承継執行文なく執行可能

　　　②件外動産を直ちに売却処分する権限を執行官に与える。

　(3)　その他（改正要望があったが実現しなかったもの）

　　・承継執行文を不要とする承継人への一般的な執行力の拡張。

　　・占有権限を明らかにしない占有者につき不法占有であると推定することの是非、積極的に失権を認める規定を創設することの是非

　　・濫抗告対策として引渡命令確定前に効力を認めることの是非

　　・執行官による他の公官署（福祉事務所等）への協力要請権限の付与の是非

　・滌除と代替的新制度（教科書222～226頁）

　・松岡久和「いま、担保法に何が起こっているのか（第４回）」銀法600号64頁以下