2025年度第32回インターカレッジ民法討論会
【開催日時・場所】
２０２５年１２月１３日（�土） 受付開始１０時、開会１０時３０分～終了１８時頃。懇親会はなし。
龍谷大学慧光館３階３０１号教室（４月に使用開始されたばかりの新しい建物）
主催
インターカレッジ民法討論会2025実行委員会・龍谷大学法学会
今年は七戸先生が出席されないので、私が提供したフィーバー賞は、中世のペストドクターマスクでした。
【本年度の問題】
次の文章を読んで、後記の〔設問〕に答えなさい。
【事実】
Ａは、大学時代から親交のある友人に対し、Ｂの妻であり、Ａの幼馴染でもあるＣが所有する甲土地の購入を打診した。Ａは、甲土地が都市計画の見直し対象地域に含まれる予定であるとの情報を得ており、地価の上昇を見込んでいた。そこでＡはＢに対し、「甲土地をそのままにしておいても固定資産税などの負担が増えるだけで、今後地価が上がることもないだろう。今のうちに売った方がよい」と説得した。
Ｂは、経営する飲食店の業績不振により生活資金に困窮していたため、Ａの提案に強い関心を示し、甲土地を、時価の5,000万円よりも安い価格である4,000万円で売却する方向で話を進めることにした。
甲土地は、Ｃが独身時代に父から相続した不動産であり、登記簿上もＣの単独名義である。Ｃは、不動産管理の知識が乏しく、日常の管理をすべてＢに委ねていたが、甲土地について、Ｃの家族が代々守ってきたものとして強い愛着を持ち、売却する意思は全くなかった。このことをＣはにも繰り返し伝えていた。
Ｂが売却の意向をＣに伝えたところ、Ｃは強く拒絶した。夫婦間で激しい言い争いとなり、Ｂが「納得できないなら離婚したい」と言うと、Ｃは、甲を売却する意思はまったくなかったが、怒りにまかせて「もうこれ以上言い争いたくない。好きにすればいい」と言い残して家を出た。
数日後、ＢはＣを売主、Ａが代表を務める法人Ｄを買主とする売買契約を締結した。
Ａは代金4,000万円をＢに支払い、甲土地の活用準備を開始し、駐車場整備のため施工業者Ｆに工事費400万円を前払いした。Ａは、甲土地の運用によって少なくとも2,000万円の利益を見込んでいた。
その後、Ｃは自宅に戻ったが、Ｂの登記移転の求めに応じず、「しばらくこの話はしたくない」と述べた。
Ｂは、再びＣが家を出ることを恐れ、説得を控えた。数日後、ＢはＡに登記移転が難しい可能性を伝えたところ、Ａは激怒し、履行しないなら法的手段を取ると告げた。
数週間後、Ｃは持病の悪化により死亡した。法定相続人はＢとＣの兄Ｅである。Ｃの遺品から、自筆証書遺言（全文・日付・署名・押印あり）が発見され、そこには「甲土地は兄Ｅに相続させ、家族で守ってほしい」と記載されていた。
〔設問〕
上記〔事実〕における、Ａ・Ｂ・Ｃ・Ｄ・Ｅ間の法律関係を整理した上で、それぞれ誰に対してどのような法的主張を行うことができるか、またそれに対して相手方からどのような反論が予想されるかを踏まえたうえで、その請求の当否について、論じなさい。
（出題：カライスコス アントニオス）
【参加ゼミ】 （立論順）
| 京都産業大学 |
坂東俊矢ゼミ |
| 法政大学 |
田尻有斗ゼミ |
| 龍谷大学 |
若林三奈ゼミ |
| 山形大学 |
神澤真佑佳ゼミ |
| 京都産業大学 |
高嶌英弘ゼミ |
| 龍谷大学 |
中田邦博ゼミ |
| 龍谷大学 |
カライスコス アントニオス ゼミ |
【ゼミ担当教員以外の参加】
| 立命館大学法務研究科教授 |
松岡 久和 |
| 龍谷大学法学部准教授 |
吉内 佑実 |
【ルール】
本年度のルール(pdf)
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教員評点 |
学生評点 |
合 計 |
| 優勝 |
神澤ゼミ |
22.83 |
21.68 |
44.51 |
| 準優勝 |
田尻ゼミ |
21.82 |
22.58 |
44.40 |
| 第3位 |
若林ゼミ |
20.97 |
20.92 |
41.89 |
| 次 点 |
カライスコス ゼミ |
19.23 |
20.86 |
40.09 |
今年も、1位・2位は、非常に僅差の大激戦でした。私の評価は、神澤ゼミ、田尻ゼミ・若林ゼミ・中田ゼミ（3ゼミ同点）の順でした。神澤ゼミの皆さん連覇、おめでとうございます。遠方から来ていただいた甲斐がありましたね。また、田尻ゼミやカライスコス ゼミのみなさんは、初参加で大健闘でした。全体に、僅差でした。
集計にあたり、①一般聴講票のうち、すべてのゼミに投票していないもの、②参加ゼミの票のうち、自ゼミに投票したもの、③適正に入力されていないもの（半角数字の入力ではなく、「１０点」等と書かれたものは無効票として処理された、ということです。
特別奨励賞は、カライスコスゼミ（初参加）
フィーバー賞は、昨年に続いて高嶌ゼミ
【解説】
カライスコス先生から解説がされました。龍谷法学に書いていただく予定になっています。
優秀質問者(敬称略)
※私は、安達さんと神永さん（田尻ゼミ）に投票しました。この他、複数の教員票を得たのは、松本さん（高嶌ゼミ）と中田さん・三橋さん（若林ゼミ）でした。また、坂東ゼミの山本さんは、丁寧な挨拶を前振りで行っていて、人柄の良さが感じられました（カライスコス ゼミに対する質問がやや意味不明だったので私の中では次点）。
若干の辛口批評を加えますと、今年は良い質問が少なかったです。単純な質問と応答の一往復では物足りません。関連質問制度がなかったので、最初の質問に上手に複数の問いを関連させて行うという技術が必要になります。また、「自分のゼミはこういう構成を採用したが、貴ゼミはそれを検討されたか。」とか「うちのゼミのこういう構成をどう思うか。」という質問は、見解対立を明らかにしているにとどまるので、もう少し工夫が欲しいです。ただ、熱心に準備をしてきた立論担当者からの質問が多いのはやむを得ないが、立論担当者以外の方も積極的に質問をして欲しい。質問には勇気が要るところ、教員討論後の質問がたくさん出てきて良かった。これも積極的に参加されてよく勉強されたという証しだと評価します。
中田邦博先生からもコメントをいただきました。「報告ゼミの中には、貴重な報告時間10分を最大限利用することができずに、1分以上時間を残したり、他方で制限時間のルールを守れずに時間を超過したり、やや残念な立論がみられた」。今後の改善点としていただきたいとのことです。
【各ゼミについての寸評】
あくまで松岡の主観的な感想で、教員全員の共通認識とは限りません。pdfにコメントを入れたものを併せて掲載します（添削を日頃行っている癖でコメントを付けてしまいます）。
全体として、この討論会の趣旨が十分生かされ、レジュメや報告はどのゼミも充実していました。楽しく主体的に勉強し、いろいろな考え方に触れ、議論して自分のゼミの長所と短所を発見できたようで、たいへん満足しています。
- 高嶌ゼミ
最初の報告は緊張感が半端ではなくたいへんでしたね。レジュメ内容は良かったのですが、報告とレジュメがズレている感じで少し聞き取りにくかったので印象がやや悪くなってしまって残念でした。質問に対しての応答はなかなか的確でした。
- 田尻ゼミ
レジュメも報告も良かったが、質疑は、質問の趣旨があまり理解されていない感じがしました。心裡留保の検討をしないのかという問い（それ自体はあまり感心しない質問）に対して、意思表示の瑕疵は代理人について判断すると答えたのみで混乱していたり、110条の基本代理権の有無を尋ねられているのに日常家事の代理を基本代理権について答えるなど、すれ違っていました。
- 若林ゼミ
報告する論点の取捨選択に疑問があります。法人論は論及する必要はないでしょう。遺留分侵害額請求に対して廃除について論及するなど良い点も多いが、代理の論点の間に相続が挟まれるなど各論点が散らばっている感があり、全体像が見えにくかったのがもったいないです。答えにくい質問にも上手に対応できていた点が高く評価されます。
- 神澤ゼミ
論点の配置具合のバランスの良さや、レジュメと対応した聞き取りやすい報告が最も優れていました。質問への応答にはまだ改良点があると思いますが（無権代理の効果不帰属と契約無効は違います）、質問をかわす回答もなかなか上手だと感じました。総合点で、頭1つ抜けていたと感じました。
- 坂東ゼミ
レジュメに参考文献リストを付けたのは高く評価できますが、当事者名の誤記などがあって残念でした。Ｂは代理権があると誤信していたという評価は、ちょっと無理があるとも感じる一方、Ｂの善意・悪意の判断も微妙なのだと気付かされました。質疑応答では、Ｂに債務不履行責任を追及できる（誰が？）、無権代理と有権代理がどちらも成立する（！？）というのは問題でした。
- 中田ゼミ
参考文献を示した点は高評価ですし、レジュメは論点を整理していて聴きやすかったし、基本代理権の存在がありうるとの指摘は良かったです。ただ、「委任による法定代理」、「無権代理による取消」、履行利益と信頼利益の重畳請求など少し無理な主張が含まれていました。質問で突っ込まれて「検討していませんでした」という正直すぎる低姿勢な回答が残念でした。自信があるように見える回答や臨機応変の対応も必要です。
- カライスコス ゼミ
図表や論点の使い方は上手ですが、漏れている論点もあります。口頭報告原稿はレジュメの後で修正したのか、レジュメと口頭説明が齟齬しているように感じられたのは弱点です。質疑で、（少々無理はあるのですが）有権代理になる場合に詐欺取消しで対応しようという構想が明らかになって、面白いと感じました。
坂東先生提供の教員集合写真