講義要項

1. 第１回　金銭債権と利息債権について
   
   • ［全体のお詫び］　３クラスいずれにおいても、問(3)にはたどりつけませんでした。これを後日補充的に検討するか、あるいは、ここに簡単な解説を貼り付けるかは、検討中です。
     
     
   • ［説明の訂正］　２時限目のクラスにおいて、β債権につき、遅延損害金の上限利率を、18％×1.46＝26.28％と説明した。Ｙが現実に利用可能であった額が交付された80万円であり、利息制限法2条による元本充当の結果、遅延損害金の発生基準時となる弁済期には、法律上も92万円しか元本額がないので、利息制限法1条1項により、18％を基準と考えたからである。これに対して、潮見『プラクティス』32〜33頁は、「法律上の元本」と「計算上の元本」を正確に区別すべきことを強調するから、この考え方によれば、「法律上の元本」はＸＹの契約した元本額100万円なので、最高制限利率は15％となり、遅延損害金の制限利率は、15％×1.46＝21.9％ということになるのではないか、との指摘があった。
     　利息制限法の規律の仕方からすると、潮見説の理解が筋が通っているので、説明を訂正したい。ただし、潮見説でも、遅延損害金の計算の基礎となるのは、過払い利息8万円（＝20万円-80万円×0.18×10/12）の弁済充当後の92万0000円である。
     
     
   • メールにて、譲受人が譲渡人を代理（代行）して債権譲渡の通知を行うことには、偽の譲受人が委任状を偽造したり、嘘をついたりする危険が同様にあり、債務者に判別ができないという点は変わらないから、代理ができることと、譲渡通知の代位行使ができないという扱いの違いには、合理性が感じられない。どう考えればよいか、という質問があった。
     　代位は、代位される譲渡人がまったく関与しなくてもできるから（保存行為や被保全債権の弁済期後には裁判所の関与も要しない）、構造上危険が大きく、これを有効な通知だと認めると譲渡人からの通知では足りないとした趣旨が損なわれる。これに対して、実際に譲渡人からの有効な委任にもとづいて譲受人が通知を代理（代行）する場合は、譲渡人の意思にもとづくから杓子定規に無効とする必要はない。たしかに、自称譲受人が譲渡人を無権代理する場合が考えられるが、表見代理規定の類推適用がない限り、無権代理による通知は有効な対抗要件とはならない。
     
     
   • （追加）　質問：大判昭和2年10月22日法律新聞2767号16頁は、遅延損害金が元金債権に付随して発生することを理由に、元金債権の譲渡があれば反対証拠のない限り、既発生の遅延損害金債権も同時に譲渡されたと認定すべきである旨を判示している。この判決の射程は、例えば、支分的利息債権にも及ぶのだろうか。
     　回答：昭和2年の大審院判決は、大判大正9年2月14日民録26輯128頁が、既発生の遅延損害金請求権は、常に元本債権に随伴するものではない、として性質論からは当然に随伴しないと考えたのを受けて、債権譲渡契約の解釈という別の方法で、結論的には随伴するとしたものである。債権総論の利息債権の箇所を読んで欲しいが、将来発生する利息債権は、元本債権に付随し、当然に随伴する性質のものと考えられている。一方、既発生の支分的利息債権は、すでに元本債権からは独立した金銭債権だと理解されているから、当然には元本債権の譲渡に随伴しない。ただ、利息債権も元本債権があって初めて発生する権利であるという点では、付随性があるので、昭和2年判決のような債権譲渡契約の解釈による解決は、既発生の支分的利息債権についても妥当しうる。
     
   
   
2. 第２回　消滅時効に関して
   
   • 問(1)(b)のＧの所有権喪失の抗弁について、ＢからＧへ、譲渡担保契約にもとづいて移転登記を行ったという事実は、主張する必要がないとの指摘があった。もっともなので、お詫びして訂正する。
     　この事実は、たとえば、所有権にもとづく抵当権設定登記の抹消登記請求の場合には、抵当権設定登記を保持する権原があるという抗弁を基礎づけるために、必ず主張しなければならない（司研『問題研究』130頁参照）。しかし、所有権喪失の抗弁の場合には、不要である。なぜなら、譲渡担保契約にもとづく所有権の移転とそれによる設定者の所有権喪失は、物権変動当事者間の問題であり、対抗要件としての登記を問題にする必要がないからである。
     
     
   • 上記と同じ箇所で、「�C『譲渡担保設定者がその当時甲を所有していたこと』は主張する必要はない。譲渡担保設定者自身が譲渡担保権者に対して物権的請求権を主張している本件のような事例では、その点は、すでに原告の請求原因に現れているからである。」と説明した。この点について、それではなぜ、どういう場合にこの事実の主張・立証が必要かとの質問があった。
     　この�Cの主張が必要になるのは、たとえば、次のような事例である。Ｘから所有権移転登記を得たＡが、Ｙに対して、譲渡担保を設定し移転登記を行った。この場合、Ｘの物権的登記請求権の主張に対して、Ｙが、�@被担保債権の発生原因事実、�A譲渡担保契約締結の事実を主張・立証したとしても、自ら譲渡担保設定契約を締結したわけではないＸは、ＡＹ間の譲渡担保設定契約に縛られないから、�@�Aだけでは有効な登記保持権原の抗弁とならず、�Cが必要である。
     　これは、たとえば、盗難被害者Ｘからの2年以内の盗品甲の返還請求（民193条）に対して、占有者Ｙが前主Ａから有効な売買契約で甲を買い受け、甲の引渡しを受けたと主張しても、ＹＡ間の債権契約は、その間での所有権移転を基礎づけるにすぎず、Ｘに対しては、有効な占有権原の主張となりえない、という関係と同一構造である。
     　司法研修所の要件事実論が、この�Cの要件をも必要だとするのは、同じく所有権にもとづく返還請求や登記抹消請求でも、様々なパターンがあり、最小公倍数的に共通に必要な要素を括りだして統一を図ろうとするからだと思われる。したがって、今回のけーすもそうだが、紛争パターンによっては、実際には構造上主張を要しない場合も出てこざるを得ない。
     
     
   • 事例１で、Ｂに時効援用権を認めたうえでの調整方法として、２時間目のクラスでは、不法行為のみをあげましたが、もちろん117条の無権代理人の責任を根拠にすることもできる。
     
     
3. 第３回　保証債務に関して
   
   • ２時限目の講義で紹介した大判昭和16年5月23日民集20巻637頁は、やはり、保証人が一定の地位（この事例では組合の理事長）を前提にして締結した根保証債務について、その地位を退任した場合に、解約告知権を認めた事例ですから、本件Ｙ2のケースには、ぴったり当てはまります。潮見・プラクティスの記述の方が、誤りです。その旨は、潮見教授に連絡して、改訂の際に訂正されるようにしていただきます。
     
     
   • 問(2)について、事前・事後の通知が欠けた場合、当事者の法律関係がどうなるかについては、補足説明のpdfを用意しましたので、そちらをご覧下さい。■←これをクリック！
     
     
4. 第４回　詐害行為取消権に関して
   
   
   • 甲もしくは乙のみを対象として取消しができるかどうかという質問を受けました。理論的には可能性があると思います。ただ、甲建物とその敷地乙土地の売買契約が不可分の１個の法律行為だと考えると、法律行為の一部取消しは難しいかもしれませんし、実際問題として、土地と建物が相対的に別の所有者になると、ただでさえ複雑な法律関係がさらに複雑になり、実務的な処理には耐えにくいように感じます。
     
     
   • 客観的要件と主観的要件を１つに統合して総合的・相関的に１つの詐害性という規範的要件と考えるとすると、受益者の悪意は何に対するものかという質問が出ました。理論的に比較的すっきりするのは、悪意を単純に債務者が無資力になるということではなく、債務者の法律行為に詐害性があることについての悪意と考えることでしょう。こうすると、債務者の当該法律行為によってたしかに債務者が無資力になるが、それは債務の弁済など有用な使途を目的とするため正当なものである（詐害行為として取り消されない）と信じた受益者については、「善意」であって責任を負わないという結論を導きやすいでしょう。
     　もっとも、あくまで債務者が当該法律行為によって無資力になることについての悪意だと解しても、現実に債務の弁済等に売却代金が使われている場合には、債務者についてすら詐害性が欠けるので、受益者には責任追及はできません。両者の違いは、受益者が、有用な弁済に使われると信じていたが、実際には浪費されて弁済には使われなかったようなケースです。後者の構成では、受益者は悪意で免責されません。前者の構成では、受益者は善意と評価されて責任を免れます。
     　いずれが妥当な結論かは微妙ですね。
     
     
   • 問(2)(a)に関連し、詐害行為取消権の要件としての、詐害行為前の被保全債権の存在について、将来の婚姻費用の支払に関する債権につき、調停によって支払が決定された以上、調停の前提となる事実関係の存続がかなりの蓋然性をもって予測される限度で、その債権を被保全債権とすることができるとする判例を参考判例�Aだと述べましたが、次の判決の間違いでしたので、お詫びして訂正します。ご指摘いただいた受講生には感謝します。
     　　最判昭和46年9月21日民集25巻6号823頁
     
5. 第５回　債権者代位権・抵当権と妨害排除に関して
   
   
   • CASE 1 の(1)(a)で、代位行使の対象となるＹのＺ1に対する権利については、ＹのＺ1に対する所有権にもとづく甲の返還請求権を代位行使するとの構成も考えられる。ただ、この場合には、Ｚ1からＹＺ1間の売買契約の締結によるＹの所有権喪失という抗弁が出てくるので、再抗弁として、Ｘ1は、錯誤無効か詐欺取消を主張せざるをえなくなり、全体として主張・立証すべき内容は変わらない。
     　この構成で変わるとすれば、Ｚ1の抗弁である。Ｘ1が、ＹのＺ1に対する所有権にもとづく甲の返還請求権を代位行使する場合には、同時履行の抗弁権が主張できるかどうか微妙である。近時の学説は、当事者間では、所有権の規律より契約関係の規律が優先するべきだという一種の法条競合的な考え方を支持しており、それによれば、所有権にもとづく請求に対しても、同時履行の抗弁権を主張できることになる。
     　請求権単純競合説に立つ判例が、この場合どういう態度を採るかは不明である。仮に同時履行の抗弁権を主張できないとすれば、Ｚ1は留置権の抗弁を主張することになろう。そして、Ｚ1の詐欺にもとづく取消しと返還請求の場合であれば、Ｘ1は、Ｚ1の甲の占有が不法行為にもとづくもので、留置権が成立しない（民295条2項）との再抗弁を主張できよう。
     
     
   • 同じく CASE 1 の(1)(a)で、Ｚ1の詐欺を不法行為だとして、差額180万円の損害賠償債権を代位行使の対象と考える方法はある。たしかに、これだと代位対象債権が金銭債権となるので、代位権行使後に事実上の優先弁済を受けることが可能となりそうである。しかし、この請求に対しては、Ｚ1は、724条により、詐欺の不法行為とそれによる損害の発生をＹが知った2001年5月25日から3年間の短期消滅時効にかかるので、Ｚ1は消滅時効の抗弁を出して、請求棄却に持ち込める。
     
     
   • CASE 1 の(1)(d)について。判例・通説の立場を支持しつつも、代位訴訟が提起された場合であっても、第三債務者が債務者に弁済することは妨げられないとする見解（星野英一『民法概論�V（債権総論）〔補訂版〕』（良書普及会、1981年）103頁があり、奥田昌道編『注釈民法(10)』（有斐閣、1987年）771頁［下森定］や野村豊弘ほか『民法�V　債権総論〔第2版補訂2版〕』（有斐閣Ｓシリーズ、2003年）95頁［野村］は、これに従っている。あまり議論のないところであり、検討の余地がある。しかし、処分禁止効を肯定しながら、第三債務者の弁済を認めるのは矛盾である（弁済受領による債権消滅は、債権の処分以外のなにものでもない）。判例・通説に従えば、弁済を禁じないと論理が一貫しない（潮見佳男『債権総論�U〔第3版〕』（信山社、2005年）50〜51頁参照。東京高判昭和60年1月31日判タ554号174頁は、弁済禁止効を肯定している）。
     　（昨年も同じ質問があり、詳しいコメントを書いていたのに、忘れてしまっていました。去年の資料は今は見えないようにしていますが、もし興味があれば次のurlを直接打ち込んでみてください。ちょっと過激な指摘もしています：http://www.matsuoka.law.kyoto-u.ac.jp/Lecture2005/LawSchool/CivilLaw3Index.htm）。
     
     
     
   • 講義で省略したり、端折った部分について、pdfファイルの補足を書きました。こちら！
     
     
     
6. 第６回　抵当権と利用権
   
   
   • 抵当権消滅請求に関して。講義では、「問題となるのは、Ｌであるが、競売にかけてもＧの被担保債権額の残額のすべてを回収することは期待薄な状況であり（CP(3)�A）、(3)の計画の前提として、任意売却しても、Gの被担保債権全額が弁済されない可能性がある。このような場合に、Ｌが競売を申し立てても、Ｇの被担保債権額を上回る競売価格で売れる可能性はまずないと考えられるので、Ｌの申立てによる競売手続きは無剰余を理由に取り消され（民執188条・63条2項）、民法384条4号により、結局、Ｌは、承諾を擬制される可能性が高い（民法384条4号の括弧書きの除外事由に、民執188条・63条2項の場合は入れられていない）。」旨説明した。無剰余取消しで承諾擬制となるのである。
     　拙稿「担保・執行法改正の概要と問題点(上)」金融法務事情1687号23頁では、無剰余取消しの場合にも承諾擬制が働かず、24頁で「後順位抵当権者が無剰余によって取り消される運命にある競売を申立てて抵抗することに何らの制裁もなくなった」と書いているが、これは民法384条4号の括弧書きで民執63条2項が準用されていないことを見落とした、誤った記述である。ネット掲載した補遺でもこの誤りの訂正を忘れていた。
     　上述のとおり、講義で述べた方が正しい。お詫びします。
     
     　
   
   
   
7. 第９回　担保保存義務について
   
   　第６回・第７回については、補足を忘れておりました。しばらくぶりの進行日記です。
   
   
   • �@クラスの講義において、民法504条は、直接には501条の代位について担保保存義務を課していないと述べましたが、501条は、499条と500条により代位する者についての代位割合の規定ですので、結局、501条の代位についても担保保存義務があることになります。この点、誤りの指摘を受けましたので、お詫びして訂正します。講義中で、直接代位する関係にない後順位抵当権者に対して、債権者が担保保存義務を負わないとする考え方を示しましたが、それは高木多喜男「後順位抵当権者のための共同抵当権者の担保保存義務」金法1382号26頁（1994年）です。高木説は、392条の解釈においても、後順位抵当権者の代位の期待を害する共同抵当権者の抵当権放棄の効果を、免責ではなく、不法行為として処理すべきであると主張するものです。これに対して、我妻栄『債権総論』264頁や山野目章夫・参考文献Ｂ・7頁は、より広く担保保存義務違反による免責を認めています。判例・多数説はこちらの見解をとっています。
     
   • (1)(a)で、通説的見解は、担保目的物の時価を前提に考慮しているように思われ、本問では6000万円全額についてＢ2の免責を認めるのではないかと思われます。Ｂ2やＩの先順位抵当権の抹消請求は、これを前提にしています。
     　これに対して、Ｇが甲上の抵当権を実行しても、現実に回収可能と予想されるのは4800万円程度であったことから、Ｂ2は、1200万円程度の残債務について連帯保証債務を負担せざるをえず、すでにＳが抵当権の実行によって甲を失っているという前提であるから、その分の求償はＳの一般財産に期待するしかなかったと考えるのが、私の提示した別の見解です。この見解では、その部分は、「甲上の抵当権の喪失によって償還を受けることができなくなった」わけではなく、免責の対象外となり、Ｂ2は、甲不動産の競売予想価格の限度である4800万円の免責を受けるだけになります。Ｉについても、1200万円の限度でＧは優先を主張できなくなります（乙不動産の予想売却価格2400万円−上記のように乙不動産がＧの第1順位抵当権によって受ける負担1200万円）。
     　このように乙上のＧの第1順位の抵当権が完全には消滅しない場合には、もちろん、その抵当権設定登記の抹消登記請求はできません。その抵当権の責任限度が1200万円であることが登記面上に適切に表示できれば良いのですが、現在の不動産登記法83条では、そのような登記事項の定めがないため、減責を表示することができません。Ｂ2は、責任限度額のみをＧに弁済して抹消登記手続を求めることになりましょう。Ｉは、乙の競売手続において、Ｇの第1順位の抵当権に配当される額が1200万円を限度とすることを主張して、配当異議訴訟で争うことになります。
     
     
   • 講義後の質問で、Ｇがまず乙上の抵当権を実行して2400万円を回収し、次いで、Ｂ2から3600万円の弁済を受けた場合、甲上の抵当権に対する代位関係がどうなるかが問われました（その他のバリエーションも聞かれましたが、簡略化のためこれだけを取り上げておきます）。乙の所有権を失ったＢ1は2400万円につき、Ｇの甲上の抵当権に代位でき、ＩはＢ1の権利に物上代位するかのようにして、Ｂ1の受ける配当から優先的な権利を主張できます。一方、連帯保証債務を履行して3600万円の出捐をしたＢ2も、Ｇの甲上の抵当権に代位できます。Ｂ1とＢ2の代位関係は平等なので、甲の売却代金4800万円を、求償権の債権額で按分して、それぞれ1920万円と2880万円の配当を受けることになりそうです。しかし、そうすると、Ｂ1とＢ2が、501条5号により、平等になるはずの負担が実現しません。4800万円の売却代金を、1800万円と3000万円に配当できれば良いのですが、その根拠が難しいところです。この根拠をどこに求めるかが質問の核心でした。
     　1つの考え方は、執行の局面では、単純に債権額に応じた配当にしておいて、後で、501条の定める最終的な負担と矛盾する限度で不当利得返還請求により調整する、というものです。これが可能であれば、配当異議訴訟で、不当利得の問題を前倒しにして主張することも可能かもしれません。
     　もう１つ、先ほど思い付いたのは、Ｂ2→Ｂ1の501条の代位を、Ｂ1・Ｂ2→Ｓの500条の代位に重ねて考えられないかということです。すなわち、すでに乙不動産は競売されて存在しませんので、Ｂ2のＢ1に対する501条の代位は、一見、不可能になっています。しかし、Ｂ1→Ｓの代位が可能である限度で、そのようなＢ1の代位権の上に、Ｂ2が代位するということができるのではないかと思います。501条の代位が負担部分を超えた場合に可能であるとする考え方に立てば、6000万円の当初債務額の1/2である3000万円を超える出捐をしたＢ2は、600万円の限度でＢ1に代位でき、逆に2400万円しか出捐していないＢ2がＢ1に対して代位することはできません。そこで、甲上のＧの抵当権をＢ1・Ｂ2が代位する場合、まず、この600万円の限度で、Ｂ1の代位権がＢ2に優先されると考え、計算上、Ｂ1→Ｂ2に600万円が払われたとします。Ｂ1がＢ2に支払ったと計算される600万円は、Ｓにさらに求償できますから、Ｂ1の求償権は3000万円になります。一方、600万円の支払を受けるＢ2のＳに対する求償権は3000万円に縮減されます。したがって、この計算上の操作により、Ｂ1・Ｂ2は、Ｓに対する平等の求償権3000万円を持つことになります。これにより、4800万円の売得金は、2400万円ずつ配当されることになりますが、600万円は実際には支払われていませんので、Ｂ1の配当から６００万円を減じ、Ｂ2の配当に加えることで、実現することになります。こうして、配当額は、目標通りの1800万円と3000万円に落ち着きます。
     
     
8. 第10回　「物上代位と相殺」についての質問への回答と補足。
   
   
   • 主張・立証責任について
     
     �@相殺の抗弁
     　受働債権についての差押えの日時は、通常、債権差押えの申立ての中で現れているから、第三債務者の側が主張・立証する必要がないことになろう。しかし、要件事実論における請求原因は、請求を基礎づける必要最低限の事実は何かを問題にしている。そして、取立訴訟において、債権の差押えをしたことは主張しなければならない不可欠の事実であるが、それがいつなされたのかはそうではない。そこで論理的には、�Bは抗弁に回ることになる。
     
     �A物上代位が優先するとの再抗弁
     　必読判例�@の判断枠組みに従うなら、Ｘが、再抗弁として、自働債権の発生時以前に抵当権設定登記を行ったこと（CP�D。乙の抵当権に基づく物上代位であるからCP�Cの事実は無関係である）を主張・立証すべきことになろうか。
     　これに対して、むしろ、第三債務者の側が自己の反対債権（自働債権）が抵当権設定登記より先に発生ないし取得したものであることを主張・立証すべきなのではないか、との質問があった。
     　たしかに、通常、物上代位に基づく債権執行の申立てには、民事執行法181条1項3号の抵当権の登記事項証明書の提出によって始まるが、同項1号・2号による申立ても可能である（第三者に優先権を主張できないだけである）。したがって、抵当権設定登記がなされているか否か（そしてその時期）は、請求原因に不可欠の要素ではなく、そこに現れない場合がある。その場合を考えれば、第三債務者側の抗弁としては、民法511条の制限にかからないということを主張・立証すれば足り、物上代位権者の登記の欠缺について主張・立証する必要はない（民執181条1項1号・2号に基づく物上代位権の行使に対しては、相殺を対抗できる）。それゆえ、抵当権設定登記の時点が第三債務者の反対債権取得時より前であるとの主張が、再抗弁として位置づけられることになる。
     
     
   • 賃料債権の発生時期
     
     　賃料債権がいつ発生するかについては、賃貸借契約の締結時にすでに抽象的な意味での賃料債権は発生していて、支払期限が各時期毎に到来するという構成もありうるところである。このように解すれば、賃料債権の差押えも現在債権の差押えであって、参考判例�@と変わるところはない、という結論となる。もっとも、私は、賃料債権は各期毎に発生するため、差押えは将来債権に対する差押え（が中心）となるという判例・（おそらく）通説が妥当であると考える。というのは、後者の考え方では、期間を定めない賃貸借契約の場合、いったいどういう額の債権が発生したのかや、期間を定めていても途中解約した場合にどうなるのかが説明にしにくい。
     
     
   • 建設協力金債権の譲渡担保の法的構成について
     
     　詳しくは譲渡担保のところで検討する。
     　債権譲渡担保について、担保的構成を採る多数説に立った場合には、Ｙがなお自働債権を有していると考える余地がある。しかし、譲渡担保に供した特定の債権は、担保的な拘束を受けており、譲渡担保設定者は、債権質の設定者同様、弁済受領や相殺によって消滅させる行為を行うことはできないものと解される。よって、担保的構成を採っても、Ｙの相殺の抗弁は、債権喪失の再抗弁により否定されるという結論は、動かないだろう。
     
     
   • 登記時基準説（その変形としての二段階基準説）と差押時基準説の優劣
     
     　判例の登記時基準説（の変形である二段階基準説）をなぜ私が支持するかについて。
     　1)　抵当権の登記は抵当目的「物」についての公示手段＝対抗要件であっても、その変形物である債権の公示手段＝対抗要件とは言えない、との批判（山野目ほか）がある。たしかに、抵当目的「物」に対する対抗要件は、その価値変形物である債権についての公示手段＝対抗要件としては不完全であり、抵当権設定登記以後も、設定者は、賃料債権の取立てや処分を妨げられない。物上代位権の行使が差押えによらなければならない、というのはそのためである。しかしながら、今回の設例のＤとＸの優先劣後を決める場合、Ｄの差押えが先行しても、配当要求の終期前に抵当権者Ｘが物上代位による差押えをすれば、Ｘが優先するとの結論は、利益衡量としても動かしえないと思われる。この結論を正当化するには、差押えをすることによって現実化する価値支配の前提として、抵当権設定登記によって、抽象的には優先できる地位が確保されていると説明するほかないであろう。差押時基準説を採用しつつ、先行する一般債権者の差押えよりも物上代位が優先することを根拠づけるのは、きわめて困難である。
     　2)　物上代位と債権譲渡や相殺の優劣が問題になる場合、差押時基準説を採っても、相殺権の濫用法理の活用によって、登記時基準説とほぼ同じ結論に至ることが可能である。しかし、相殺権濫用法理は、権利濫用一般のかかえる問題点と同様、個別具体的な事実関係によって結論が左右される。訴訟で時間をかけて争われることを前提にすれば、それでも良いのかもしれないが、担保権の実行は、訴訟とは異なって、外形的客観的要件の存否を基準として、迅速かつ画一的に進められなければならない。差押時基準説のような訴訟をしてみるまでは結論が暫定的にしかわからないとか、対審構造を採らない決定手続を中心とする執行裁判所に時間のかかる実体法上の微妙な判断をさせなければならないという解釈論は、執行実務の基準としては不適切である。
     
     
   • (2)の場合に差引計算の主張ができないとする解釈について
     
     　本件のように、2002年4月4日の合意（CP�H�I）にそって、保証金返還債権が現実化した場合には、保証金（敷金）としての性格を失い、差引計算の主張ができなくなるという考え方も成り立たないではない（準備段階での横山教授のご指摘や２時間目のクラスでの質問）。
     　しかし、賃借人Ｙが自己の反対債権を確保するための自衛的な特約を行うと逆にその立場が弱くなるという結論は、逆説的で説得力が欠けるように思われる。
     　のみならず、一般的に、主位的な抗弁が認められない場合、それと矛盾する予備的抗弁を主張することは妨げられないと解されている。必読判例�@によって、相殺予約ないし相殺合意の抗弁がＸの抵当権設定登記に遅れる結果、Ｘの物上代位に対抗できないとして主位的抗弁が退けられた場合に、Ｙが、相殺予約ないし相殺合意による保証金返還債権の現実化を主張せず、差引計算の抗弁を主張することも可能であるように思われる。
     
     
9. 第11回　「不動産譲渡担保」について
   
   　譲渡担保権設定者に会社更生手続が開始した場合、譲渡担保権者に取戻権を認めなかった最判昭和41年4月28日民集20巻4号900頁との関係で、破産の場合の譲渡担保権者の処遇がどうなるのかという質問があったが、その点は、この判例を必読判例として第12回で考えてもらう機会があるので（問(4)）、ここでの説明は省略する。
   
   
10. 第12回　「動産譲渡担保」について
    
    補足その１：集合物からの離脱と譲渡担保の効力
    
    　ＢはＹとの売買契約後、甲土蔵中にあった材料と作品（α）を乙土蔵中に移しており、その時点で、αは集合物から外れたのでないかが問題となりうる。
    　集合物の範囲から外れると、それが適法な転売授権の範囲外であっても、譲渡担保権の対象から外れると見る見解がある。古くは我妻665頁がそのような見解を採っており、固定化以前について道垣内334頁以下の主張もこれと同旨となる。
    　しかし、我妻のこの発想は、山林を対象とする抵当権が設定されている場合に、立木が伐採されて山林外に搬出されれば「登記により公示に包まれている限りにおいてだけその上の抵当権の効力を第三者に対抗しうる」（我妻268頁）と同一であり、考え方としては成り立ちうるものの、判例が採用するものではないだろう。判例は、工場抵当権の対象となる動産が売却されて工場から搬出されても、この第三者に即時取得が成立しない限り、抵当権の効力が及んで、抵当権者は物権的返還請求ができるとしている（最判昭和57年3月12日民集36巻3号349頁）。この発想からすれば、いったんＸに集合物について所有権が獲得され対抗要件も具備されれば、適法な転売授権によってＸの所有権が失われない限り、Ｘの所有権は集合物から外れた個々の物にも及ぶと考えるのだと思われる。
    
    
    補足その２：準消費貸借と動産売買先取特権
    　ＺＢ間の300万円の債権が準消費貸借によってもはや売買代金債権ではなくなったと解すれば、動産売買先取特権に基づく差押えの方に対しては、執行異議を行うこともできよう（民執191条）。準消費貸借の意義の1つに、動産売買先取特権がなくなることを挙げる見解（梅謙次郎『民法要義巻之(3)債権編　改訂増補17版』591〜592頁（有斐閣、1908年）がある。
    　もっとも、一般的には、更改契約との違いを理由に、旧債務の担保や抗弁は準消費貸借による貸金債務にも引き継がれると解されており、動産売買先取特権が当然に消滅するとは断言できない。
    
    補足その３：動産引渡しの強制執行について
    　民執121条〜123条を指示しましたが、これらの規定は金銭執行の規定であり、正しくは、民執169条1項（民執121条は不適用）と同条2項で準用される122条２項、123条2項等々です。αの直接占有者Ｂが争う場合には、Ｘは、Ｙに対する勝訴判決に基づいて、ＹのＢに対する引渡請求権を差し押さえ（民執170条）、その請求権の履行請求訴訟をＢに起こすことになろう。
    　設例とは違って、ＸがＢに対するαの引渡請求訴訟に勝訴すれば、その債務名義により、直接占有者Ｂに対して強制執行ができる。しかし、Ｙがαの所有権の取得を主張して第三者異議訴訟を起こすか、執行により占有を取得したＸに対して、所有物返還請求訴訟を起こすから、結局のところ、ＸとＹの間で決着がつかないと、この紛争は終局的な解決に至らないだろう。
    
    補足その４：Ｘの「元」所有という表現
    　研修所の要件事実論の表現に、ところどころ違和感を感じる部分があるが、Ｘの「現」所有そのものを直接に証明することはできないから、過去の一定時点の「元」所有を主張・立証してこれに代えるというのが、一般的なようである。そうすると、Ｘの「元」所有を基礎づけるためには、Ｂの「元所有」（Ｘの所有時点より前ということを強調する表現だと「元元所有」ということになろうか）＋譲渡担保設定契約（＋被担保債権の発生原因事実）締結の事実、集合物譲渡担保なら係争物が約定にいう集合物の構成要素となっていること、主張・立証しなければならないことになる。
    　私は、指名した受講生がＸの「元所有」と言ってＢの「元（元）所有」と混乱しているのではないかと誤解したので、変な突っ込みを入れてしまった。すみませんね。
    
    
    
11. 第13回　「債権譲渡その１について」
    
    
    • 補足説明：今回のQ(2)の核心部分は、（第三）債務者が、債務者対抗要件の抗弁のほか、譲受人Ｘ（履行請求の原告）以外にこれと優劣を争う第三者（別の譲受人や譲渡債権の差押債権者）がいるという第三者対抗要件の抗弁、さらに、第三者が先に対抗要件を備えたのでＸは債権を取得していないとの抗弁（あるいは失っているとか劣後するとの抗弁。債権喪失の抗弁と称されることが多いが、劣後の抗弁という方が私はより適当と感じる）の３種類の抗弁が可能である、ということにある。
      　この３つの抗弁は、それぞれ独立して抗弁として出しうるが、論理的には、下記のように、債務者対抗要件の抗弁→第三者対抗要件の抗弁→劣後の抗弁という順に展開することがありうる（抗弁・再抗弁……の3段重ね構造）。
      
      1. 債務者対抗要件の抗弁
         Ｘの請求に対して、Ｘが債務者対抗要件を具備するまで債権者と認めないとの抗弁。
         
         　※Ｘが債務者対抗要件具備の事実を再抗弁として主張・立証したら、債務者Ｙ2は、次に第三者対抗要件の抗弁（再々抗弁）を出す。
         
         
      2. 第三者対抗要件の抗弁
         ＡからＺ2にβ債権が移転したことを基礎づける事実
         　　＋
         Ｚ2の債権取得について債務者対抗要件が備わっている事実
         　　＋
         ＡからＸへの債権譲渡につき、Ａが確定日付ある証書による譲渡の通知をしないかぎり、Ｘを権利者と認めないという（第三者）対抗要件の抗弁
         
         　※Ｘが第三者対抗要件を具備した事実を再々々抗弁として主張・立証したら、債務者Ｙ2は、次に劣後の抗弁（再々々々抗弁）を出す。
         
      3. 劣後の抗弁
      　　　　ＡからのＺ2の債権譲渡について確定日付のある通知又は承諾が備わっていること
      　　　　　　＋
      　　　　Ｚ2の第三者対抗要件具備の時点が、Ｘの第三者対抗要件を具備した時点より早いこと
      
      　こうした構造になっているので（とりわけ劣後の抗弁）、Ｙ2は、同時到達ないし先後不明の場合には、劣後の抗弁が主張できず、Ｘの請求に従わざるをえないのである。
    
    
12. 第14回　「債権譲渡その２について」
    
    
    • ２時間目の�@クラスで、代物弁済による債権譲渡の場合、譲受債権の請求原因事実として、代物弁済によって消滅する運命にあるＸのＡに対する4000万円の債権の発生原因事実を挙げるか否か、迷ってしまいました。別の議論と混乱していたようです。元の債権の発生原因事実は、それがないと代物弁済の原因を欠くので、請求原因事実となります。
      
      
    • 譲受人を特定しない債権譲渡の承諾が、譲受人誰に対しても支払うという意味で有効であるとすれば、ＹからＡを介してＸがＺ1の債権譲渡承諾書を入手したことで、Ｘへの譲渡まで債務者によって包括的に承諾されている、と解することも不可能ではない。このように解すれば、ＡからＸに対するβ債権の譲渡について債務者対抗要件は備わっていることになり、Ｚ1が債務者対抗要件の抗弁を出すことはできないことになろう。
      　もっとも、附合契約的に素人が署名・捺印した本件譲渡承諾書に、そこまで広い承諾（しかも将来の譲渡に対する包括的承諾になる）の意思があったと認めることは困難であり、債務者保護の観点からも妥当でない。